ジュリーは沈黙したままで

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「何を描くかより、何を描かないか」9.30(火)最速試写会アフタートークに奥山大史監督(『ぼくのお日さま』)が登壇

9月30日(火)、日比谷コンベンションホールにて映画『ジュリーは沈黙したままで』Fan’s voice独占最速試写会が行われた。上映後アフタートークには、映画『ぼくのお日さま』で世界的な注目を集めた奥山大史監督が登壇。奥山監督は、自身の作品との比較や『ジュリーは沈黙したままで』が持つ<描かない>強さなど、本作の魅力について語った。

 

 

まず奥山監督が強調したのは、本作が持つ圧倒的な「余白」の力。「説明をしないからこそ、“何があったのか知りたい”という気持ちが掻き立てられる。けれど、その欲求が時に人を追い詰め、不必要に傷つけてしまう怖さがある」と、第三者側に生じる好奇心を逆手に取り、沈黙を通して人の心を揺さぶる構造こそ、この映画が持つ最大の強度だと語った。

奥山監督は本作と同じく10代の少女とコーチが登場する『ぼくのお日さま』とのアプローチの違いについても触れる。「『ぼくのお日さま』はコーチと生徒の関係を誤解されないよう、感情が動く過程を描くことにも重きを置いた。一方この映画は、あえて余白を残し、観客に考えさせることで力を発揮している」とし、自らは劇中で丁寧な説明を積み重ねることで誤解を避けたが、この映画は説明を削ぎ落とすことで、そこに真実が立ち上がるーーそういう意味で「対極にある」と表現し、「何を描くかより、何を描かないかを徹底している。説明を省くことで、観客が感情を読み取れる強さがある」と感嘆した。

話題はさらに、主人公ジュリーが取り続ける「沈黙」の意味へ。 近年の#MeToo運動の流れも踏まえ「“語る権利”が尊重されるようになった一方で、“語らない権利”も同じくらい重要」と語る奥山監督。
担当コーチへの疑惑や確信をすぐさま語ることはせず、黙々と日々を過ごすジュリーの姿に対して「沈黙が弱さではなく、強さとして描かれている。つまり、自分の人生を壊そうとしてくる好奇心や圧力に対し、沈黙という意思のある選択をしている少女の強さと孤独を映している」と解釈し、「それを強いてしまう構造自体への問題提起が込められているのでは」と語った。

さらに、同じくテニスをテーマとした『チャレンジャーズ』におけるテンポのよいカット割りなどを例に挙げつつ、本作がプロの俳優ではなく実際のテニス選手をキャスティングした点について、「監視カメラのように静的な画でじっくり捉えていく手法を取るならば、やっぱり実際にプレイできる人でしか成立し得ない」と評する。

また、35mmと65mmフィルムで撮影されている本作。奥山監督は、フィルムで撮影することの制約と強みについて、次のように語った。「予算と時間、それに自分の手法的にも、フィルムは大きな制約になります。僕はノンプロの方に出演していただくこともあるので、リハーサルからずっとカメラを回していたいんです。でもフィルムだとそうはいかず、ある程度リハーサルを重ねた上で本番に臨まなければならない。プロの俳優に出演してもらう場合でもリスクを伴う。だからこそ、その制約を理解したうえで、この映画がフィルムを選んでいる点がすごいと思いました」。また、デジタルとフィルムの質感の違いについても「デジタルだと、黒はただの黒になる。でもフィルムには粒子がある。その粒子によって黒がただの色ではなくなり、そこに意味が生まれる。それがフィルムの強さだと思います」と続けた。

最後に奥山監督は、映画全体に流れる静謐さと観客への問いかけについて「説明されなくても、観客は感情を受け取ることができる。いや、説明されないからこそ、ひとつひとつの細かい描写に意味を見出せる。この映画はそんな信念で作られていると感じた。沈黙をどう受け止めるかを突きつけられる、稀有な体験」と締め括った。

 

 

▼ 奥山大史(おくやま・ひろし)

映画監督 / 1996年東京生まれ。長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。その後、HERMÈSのブランデッドムービー『HUMANODYSSEY』の総監督に抜擢。2023年には米津玄師「地球儀」MVの監督・撮影・編集を手がけ、2025年の米津玄師「BOWANDARROW」MVでは、羽生結弦のスケート並走撮影を担当。最新作『ぼくのお日さま』は、第77回カンヌ国際映画祭ある視点部門に正式出品され、日本やアメリカ、フランスをはじめとする18カ国で劇場公開された。

 

© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

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監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也 ほか
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」


アイスホッケーが苦手で ことばがうまくでてこない少年。
選手の夢を諦め、恋人の地元でスケートを教えるコーチ。
コーチのことが少し気になるフィギュアスケート少女。
田舎街のスケートリンクで、3つの心がひとつになって、ほどけてゆく――。
雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋たちの物語。