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“大人”として扱われる世界で、たたかう15歳の心に迫った静かなる傑作 10.3 fri
テッサ・ヴァン・デン・ブルック、クレール・ボドソン、ピエール・ジェルヴェー、ローラン・カロン

エグゼクティブ・プロデューサー:大坂なおみ✕ベルギーの新鋭監督:レオナルド・ヴァン・デイル✕共同プロデューサー:ダルデンヌ兄弟

第77回 カンヌ国際映画祭 批評家週間 SACD賞受賞、第97回 アカデミー賞® 国際長編映画賞ベルギー代表

Introduction

15歳の揺れ動く心に寄り添い、力強く描き出した2020年代を代表する新たな青春映画

短編『STEPHANIE』(20)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、いま最も注目を集めるベルギーの新鋭監督レオナルド・ヴァン・デイル。前作と同様に、長編デビューとなる本作でもスポーツ界におけるコーチと生徒の関係に強い問題意識を投げかける。

主人公・ジュリーを演じたのは、テニス歴12年の若きプレーヤーであるテッサ・ヴァン・デン・ブルック。そのリアルな競技描写で少女の意志の在処を感じさせる一方、試合に向けたサーブ練習、ジムでのトレーニング、ケガのリハビリといった断片的なシーンの連続が、スポーツを「逃げ場」として利用していることを浮き彫りにしていく。そんな本作の共同プロデューサーとして名を連ねるのは、社会問題に光を当て続けてきたベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟。また、この物語に共感を示したテニス界のスター・大坂なおみが、エグゼクティブ・プロデューサーとして後押しする。

現代アメリカを代表する作曲家キャロライン・ショウの観る者を包み込むようなボーカルスコア、35mmと65mmフィルムによる緊張と抑制の効いた美しい撮影は、自然の光の中に一人の少女の感情を繊細に浮かび上がらせ、その沈黙の行方を静かに見届ける。

Story

有望視されていた選手の訃報、信頼していたコーチへの疑惑。ジュリーは、なぜ沈黙しつづけるのか──。

ベルギーのテニス・アカデミーに所属する15歳のジュリー(テッサ・ヴァン・デン・ブルック)は、その実力によって奨学金を獲得し、いくつもの試合に勝利してきた。ある日、突然、担当コーチのジェレミー(ローラン・カロン)が指導停止になったことを知らされると、彼の教え子であるアリーヌが不可解な状況下で自ら命を絶った事件を巡って不穏な噂が立ちはじめる。ベルギー・テニス協会の選抜入りテストを間近に控えるなか、クラブに所属する全選手を対象にジェレミーについてのヒアリングが行われ、彼と最も近しい関係だったジュリーには大きな負担がのしかかる。それでも日々のルーティンを崩さず、熱心にトレーニングに打ち込み続けるジュリーだが、なぜかジェレミーに関する調査には沈黙を続ける……。

Director

レオナルド・ヴァン・デイル

LEONARDO VAN DIJL

べルギーの映画監督。独特で、観客に考えさせる物語性で知られる。短編『Stephanie(原題)』(2020年)はカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、過酷なプレッシャーに直面する若い体操選手を掘り下げて撮り注目を集めた。長編『Julie Keeps Quiet』は2024年のカンヌ国際映画祭批評家週間でプレミア上映。困難に直面する中で沈黙し、立ち上がろうとする主人公を描き、さらなる才能を示した。この映画が持つ力強いメッセージに感動したテニス選手の大坂なおみが製作総指揮に参加したことで世界的に注目を集めた。主要メディアからも高く評価されている。ガーディアンは感情面の深さを絶賛。バラエティは繊細な人物描写を称賛し、ハリウッド・レポーターはヴァン・デイル監督の細部へのこだわりに注目した。Letterboxdではカンヌで観るべき映画トップ10の1本として紹介されている。現在は新たな長編映画の脚本を執筆中。コート内外で声を届け重要な議論を生み出そうと目指している。元はVICE誌でファッション・エディターをしていたほどのファッション好きでもある。

フィルモグラフィ

  • 2014 GET RIPPED(短編)
  • 2015 UMPIRE(短編)
  • 2020 STEPHANIE(短編)
  • 2024 JULIE KEEPS QUIET(長編)

Cast / Staff

  • ジュリー

    テッサ・ヴァン・デン・ブルック

    TESSA VAN DEN BROECK(Julie)

    2006年生まれ。初めて参加したオーディションで、多くの若いテニス選手の中からレオナルド・ヴァン・デイル監督に選ばれ、本作の主役の座をつかむ。2024年のカンヌ国際映画祭批評家週間でワールドプレミア上映され、映画界に踏み出す第一歩に。ルーヴァン・リンブルグ大学で看護学を学んでいる。2013年にテニスを始め、キム・クライシュテルスやジュスティーヌ・エナンのアカデミーなど、複数のクラブで腕を磨き、現在も審判を務めながらテニスを続けている。

  • ジュリーの母(共同脚本)

    ルート・べカール

    RUTH BECQUART(Liesbeth)

    1976年生まれ。1999年にスタジオ・ヘルマン・テイルリンクで舞台芸術の修士号を取得。修了後、演劇界でのキャリアをスタートさせ、テレビドラマ『Clan(原題)』で広く知られるようになる。その後も『タブラ・ラサ 隠された記憶』、『アンダーカバー: 秘密捜査官』、『ブラックアウト』、『ハイタイド』などのドラマに出演。映画ではナビル・ベン・ヤディル監督『ブラインド・スポット 隠蔽捜査』、ドミニク・デリュデレ監督『The Chapel(原題)』などに出演。アニッサ・ボンヌフォン監督、アナ・ジラルド主演『ラ・メゾン 小説家と娼婦』やオランダのスリラーシリーズ『Sphinx(原題)』など、ベルギー国外の作品にも出演し国際的なキャリアも築いている。俳優としてだけでなく執筆活動も行っており、本作ではレオナルド・ヴァン・デイル監督と共同脚本を手がけた。

  • ソフィー

    クレール・ボドソン

    CLAIRE BODSON(Sophie)

    ブリュッセル王立音楽院で学び1994年に演劇界でキャリアをスタート。ギー・カシアスやクリストフ・セルメといった演出家の舞台に出演してきた。トム・ラノワ作『Mamma Medea(原題)』の王女メディア役でプリ・ド・ラ・クリティーク最優秀女優賞を受賞した。長編映画初出演はヨアヒム・ラフォス監督『Elève libre(原題)』で、マグリット賞助演女優賞にノミネート。その後、ダルデンヌ兄弟の『トニとロキタ』や『その手に触れるまで』(マグリット賞助演女優賞ノミネート)、デルフィーヌ・ジラール監督『あの夜』、『Fils de plouc(原題)』(同賞ノミネート)などに出演している。

  • ジェレミー

    ローラン・カロン

    LAURENT CARON(Jeremy)

    1977年9月28日、フランスのアミアン生まれ。ジュール・ヴェルヌ大学で民族学を学び2001年に卒業後、リエージュ王立音楽院で演劇を学ぶ。2005年に修了後、オリヴィエ・グルメとブノワ・デルヴォーが主催するワークショップ「Face Caméra」でダルデンヌ兄弟と出会う。以来、ダルデンヌ兄弟の監督作にたびたび出演し、『ロルナの祈り』では刑事役、『少年と自転車』ではジル役、『サンドラの週末』ではジュリアン役、『午後8時の訪問者』では刑事役、『その手に触れるまで』ではマチュー役を演じた。他にもリュカ・ベルヴォー、アレッサンドロ・トンダ、ニコラ・パリジェらの監督作に出演。テレビシリーズでは『Ennemi Public(原題)』や『OVNI(s)(原題)』などに出演している。

  • バッキー

    ピエール・ジェルヴェー

    PIERRE GERVAIS(Backie)

    2016年にベルギー国立高等演劇学校(INSAS)を首席で卒業後、ブリュッセルを拠点に活動し、国内外の舞台で活躍。2018年には俳優仲間と共作した舞台がアヴィニョン演劇祭で上演された。演劇の他、映像作品ではテレビシリーズ『1985(原題)』などに出演している。

  • ジュリーの父

    クーン・デ・ボウ

    KOEN DE BOUW(Tom)

    1964年生まれ。数々の受賞歴を持ち、ベルギーを代表する俳優の1人。アントワープのスタジオ・ヘルマン・テイルリンクで演劇を学び、卒業後の1988年に映画デビュー。以来、エリク・ヴァン・ローイ監督の国際的カルトヒット作『ロフト.』など国内外の30本以上の映画で主演を務める。『ラスト・タイクーン』など、テレビシリーズにも出演している。近年では『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』やティム・ミーランツ監督『ヴィル』などに出演。2020年、アカデミー賞国際映画長編賞ノミネート作『皮膚を売った男』も演技が高く評価された。

  • 撮影

    ニコラス・カラカトサニス

    NICOLAS KARAKATSANIS

    1977年、ベルギー生まれの写真家、撮影監督。クレイグ・ギレスピー、ミヒャエル・R・ロスカム、バス・ドゥヴォス、ジョン・ヒルコートといった監督とのコラボレーションで知られる。写真と映像という2つの活動が補完し合って視覚的実験の幅を広げ、美学的なスタイルに影響を及ぼしてきた。そのスタイルは、はっきりした明暗のコントラストと、生き生きした絵画的な映像によって特徴づけられる。これまで手がけた撮影作品はアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭、トロント国際映画祭など数々の映画祭や映画賞で評価を受けている。主な担当作品として『クルエラ』(2021)、『Hellhole(原題)』(2019)、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)、『ビヨンド・ザ・スピード』(2017)、『トリプル9 裏切りのコード』(2015)、『闇を生きる男』(2011)などがある。

  • 音楽

    キャロライン・ショウ

    CAROLINE SHAW

    役割、ジャンル、メディアを自由に行き来する音楽家。「これまで誰にも聞かれたことがないが、ずっとそこに存在していたかのような音の世界」を形にしようと試みている。プロデューサー、作曲家、ヴァイオリニスト、ヴォーカリストとして、他のアーティストとのコラボレーションも多い。2013年、『Partita for 8 Voices』でピュリツァー賞(音楽部門)を受賞。グラミー賞も複数回受賞し、イェール大学からは名誉博士号を授与された。
    近年、音楽を担当した映像作品は、ドラマシリーズ『バツイチ男の大ピンチ!』(2022/FX・Hulu)や、ジョゼフィン・デッカー監督の映画『空はどこにでも』(2022)など。ロザリアのアルバム『Motomami』(2022)に参加し、ウッドキッドやナズ(Nas)とも共演。この10年間で100以上の楽曲を作り、自身も『Evergreen』(2023)などのアルバムを発売。ヴォーカリスト、作曲家として映画『スキャンダル』(2019)、『TAR/ター』(2022)、テレビシリーズ『イエロージャケッツ』(2021–)などに参加している。

Comment

  • ISO

    ライター

    明確な力関係のもとで気付かぬうちに傷つけられてしまった少女の心。
    そこに彼女の責任は一抹もない。だが世間は被害者が勇敢であること、声を上げることを「あるべき姿」のように求めてしまう。
    痛みを受け入れること、沈黙を破ることがいかに困難であるかも慮ることもせずに。

  • 相沢梨紗

    タレント

    主人公の人間力の高さに脱帽する。
    彼女の人間性を敢えて引き立てるような演出はこの映画には用意されていない。
    粛々と流れる物語の中に、驕らず・怠けず・親切な様子が自然と収められており感動した。
    面倒な思考や過程を手放した先で「誰かが幸せ」だとしても、自分が満足できる保証はどこにも無い。
    自分の信じる真実を受け止めるべく、考える事を諦めない彼女の中に稀有な強さを感じた。

  • 阿部和重

    作家

    重い事件が起こってしまったあと、残された謎とひとびとの心理という見えない部分にカメラはどうせまるべきかを考えさせる、ダルデンヌ兄弟の映画よりもずっと大胆で誠実なデビュー作。

  • 世武裕子

    映画音楽作曲家・演奏家

    沈黙は屈することではない。
    一回目は新聞を読むように。2回目はジュリーの目線で。
    3回目は保護者や友人の輪に自分を忍ばせて観てみた。
    静寂の持つ強さに圧倒されて、テニスコートの余白に溶けきってしまった。
    この感覚、言葉では到底うまく伝えられない。

  • 月永理絵

    ライター・編集者

    タイトルに反して、ジュリーはまったく沈黙などしていないと気づいたのは、映画を見始めてしばらく経った頃だ。日々のルーティンをこなし、日常をかき乱す周囲の声に身をすくめながら、彼女はずっと体全体を使って声を発していた。これは、彼女が沈黙を破るまでではなく、私たちが彼女の声を聞こえるようになるまでの、ある時間の記録だ。

  • 中村佑子

    作家/映像作家

    レシーブの快音、筋肉のなめらかさ、激しい息づかい……テニスシーンの迫真のリアリティに、ジュリーの意志力や自立心が垣間見え、だからこそ「沈黙」する彼女なりの倫理が伝わってくる。
    語ることの価値が称揚される時代にあって、彼女の「沈黙」の時間に真摯に寄りそう、この美しい映画に心から魅了された.

  • 西田尚美

    俳優

    私は、ジュリーととても気が合うと思う。
    沈黙することは、とても大事なことだ。沈黙出来る環境も。
    観察し、耳を澄ませて、思考する。そして日常を過ごす。
    私たちは皆ジュリーなんじゃないか?私はじっとその沈黙を受け入れたいと思った。

Theater

地域 劇場名 電話番号 公開日
東京 新宿シネマカリテ 03-3352-5645 2025年10月3日(金)
東京 ヒューマントラストシネマ有楽町 03-6259-8608 2025年10月3日(金)
東京 シネ・リーブル池袋 03-3590-2126 2025年10月3日(金)
東京 アップリンク吉祥寺 0422-66-5042 2025年10月3日(金)
大阪 テアトル梅田 06-6440-5930 2025年10月3日(金)
神戸 シネ・リーブル神戸 078-334-2126 2025年10月3日(金)
京都 京都シネマ 075-353-4723 2025年10月3日(金)
名古屋 伏見ミリオン座 052-212-2437 2025年10月3日(金)
長野 上田映劇 0268-22-0269 2025年10月24日(金)
静岡 静岡シネギャラリー 054-250-0283 2025年10月31日(金)
佐賀 シアター・シエマ 0952-27-5116 2025年10月31日(金)
千葉 キネマ旬報シアター 04-7141-7238 2025年11月1日(土)
東京 シモキタ-エキマエ-シネマ K2 070-8912-7312 2025年11月7日(金)
埼玉 OttO 048-871-8286 2025年11月7日(金)
愛知 刈谷日劇 0566-21-0624 順次公開
福岡 KBCシネマ 092-751-4268 順次公開