2017年初頭。トランプ政権がスタートしたアメリカで、一本のドキュメンタリー映画が異例のヒットを記録した。アメリカ黒人文学を代表する作家、ジェームズ・ボールドウィンの原作を映画化した『私はあなたのニグロではない』。本作は、ボールドウィンの盟友であり、30代の若さで暗殺された公民権運動のリーダー、メドガー・エヴァース、マルコムX、キング牧師の生き様を追いながら、60年代の公民権運動から現在のブラック・ライブズ・マターに至るまで、アメリカの人種差別と暗殺の歴史に迫る。監督のラウル・ペックは、映画で語られる言葉のひとつひとつをボールドウィンの本、エッセイ、インタビュー、講演など、彼が実際に発言した言葉を使って構成した。60年代と現在を交互に映し出す映像に、アメリカの現状を嘆き、鋭く批判するボールドウィンの言葉が重なり、50年経った今でも人種差別を巡る状況が変わらないことが明るみに出る。テレビCFやハリウッド映画が大衆に刷り込む「正しく美しい」白人の姿と歪められた黒人のイメージ。証言や豊富な記録映像を交え、強制的に作られた黒人への偏見の歴史、無知や先入観が引き起こす"差別の正体"を解き明かす様は衝撃的だ。
1957年。フランス・パリで執筆活動をしていたボールドウィンは、故郷アメリカへ戻る決心をする。パリ中で売られていた新聞に載っていた少女、アメリカ南部シャーロットの高校に黒人として初めて入学するドロシー・カウンツの写真を見たのがきっかけだ。大勢の白人たちに取り囲まれ、ツバを吐かれ嘲笑されながら登校する15歳のドロシーに、ボールドウィンは強い衝撃を受けた。「パリで議論している場合ではない。われわれの仲間は皆責任を果たしている」そして彼は、人種差別の最も激しい地域、アメリカ南部への旅に出る。公民権運動のリーダーだったメドガー、マルコムX、キング牧師との出会いと別れ。司法長官ロバート・ケネディとの会談。ボールドウィンは激動するアメリカ社会の真ん中に立ち、出来事を記録し、各地で講演をし、精力的に動き回る。そしてボールドウィンは、自身の体験と鋭い洞察力で、母国アメリカの人種差別の歴史とその正体を解き明かしてゆく―。
語り:サミュエル・L・ジャクソン
キング牧師/マルコムX/メドガ―・エヴァース/シドニー・ポワチエ/ボブ ・ディラン/マーロン・ブランド /フォード/ロバート・F・ケネディ/バラク・オバマ/ジェームズ・ボールドウィン
監督・脚本:ラウル・ペック 原作:ジェームズ・ボールドウィン 撮影:ヘンリー・アデボノジョ/ビル・ロス/ターナー・ロス 編集:アレクサンドラ・ストラウス 音楽:アレクセイ・アイギ 日本語字幕:チオキ真理 字幕監修:柴田元幸