©3003 film production, 2019
戦後ジョージア映画を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼの27年ぶり、91歳にしての新作。スターリン時代に母親が収容所へ送られ、自身の作家活動も当局によって抑圧されてきた主人公エレネには、監督自身が投影されている。ジョージア初の女性監督だった監督の母ヌツァは厳寒の地の強制収容所に10年間流刑。監督自身もソヴィエト連邦下の検閲と闘い、1991年のソ連崩壊後に独立の道を歩んだジョージアの激動の日々を生きている。日本の“金継ぎ(きんつぎ)”という伝統技術を知ったゴゴベリゼ監督は、映画のタイトルを『金の糸』に決定。監督は「日本人が数世紀も前に壊れた器を金で継ぎ合わせるように、金の糸で過去を継ぎ合わせるならば、過去は、そのもっとも痛ましいものでさえ、重荷になるだけでなく、財産にもなることでしょう」と語っている。映画の舞台は、かつてグルジアと呼ばれていたジョージアの首都、トビリシ。旧市街の古い石畳から一歩中に入ると、中庭をかこむように古い木造の集合住宅がある。住人たちは中庭を囲んでいまだ人情を感じさせる付き合いをしている。そこに主人公エレネの家がある。この中庭をうまく生かした作劇と撮影の見事さも本作の大きな魅力の一つである。音楽を担当したのは、2019年に心臓病でこの世を去ったトビリシ生まれの世界的作曲家ギヤ・カンチェリ。
トビリシの旧市街の片隅。作家のエレネは生まれた時からの古い家で娘夫婦と暮らしている。今日は彼女の79歳の誕生日だが、家族の誰もが忘れていた。娘は、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、この家に引っ越しさせるという。ミランダはソヴィエト時代、政府の高官だった。そこへかつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話がかかってくる。やがて彼らの過去が明らかになり、ミランダは姿を消す……。
ナナ・ジョルジャゼ グランダ・ガブニア ズラ・キプシゼ マリタ・ベリゼ ニノ・キルタゼ テミコ・チチナゼ ダト・クヴィルツハリア ニニ・イアシヴィリ
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ/撮影:ゴガ・デヴダリアニ/音楽:ギヤ・カンチェリ/美術:シモン・マチャベリ/衣装:ケティ・アレクシ=メスヒシヴィリ